2017.06.16 | FP赤井の生活マネー情報

特定支出控除がサラリーマンの節税手段として浸透しない2つの理由

特定支出控除を使う人は全国でわずか1800人!

個人事業主や複数の収入がある方は、毎年確定申告をしています。ビジネスにかかる正当な経費を計上して所得を下げれば、所得税・住民税を抑えることができます。
一方給与所得者、いわゆるサラリーマンの方は通常確定申告はしません。しかし実は給与所得者でも確定申告することで仕事の経費を計上できる、【特定支出控除】という制度が存在します。
住宅ローンや医療費などの申告で税金還付を受けられるのはご存じの方も多いですが、この特定支出控除は意外と知られていません。
現に全国の給与所得者5400万人中、この制度の利用を利用しているのは約1800人だそうです。(平成27年)
利用率なんと0.003%!

 

サラリーマンの節税というと誰でも興味を持ちそうなものですが、なぜそこまで広がっていないのでしょうか。

 

対象となる支出

次に掲げる支出が対象となります。

  1. 通勤費 :一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
  2. 転居費 :転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
  3. 研修費 :職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
  4. 資格取得費 :職務に直接必要な資格を取得するための支出 ※弁護士、税理士なども含む
  5. 帰宅旅費 :単身赴任などの場合の、帰宅のための旅費
  6. 図書費 :書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用
  7. 衣料費 :制服や作業服、その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服費用
  8. 交際費 :得意先、仕入先などに対する接待、贈答など
    ※6~8には職務の遂行に必要なものとして勤務先の証明書が必要で、また上限は 65万円

控除対象となる金額

この制度が当初注目されたのは、衣料費が経費にできるというところでした。
通勤費や転居費、研修費などは勤務先から支給されることも多いですが、通常衣服代は支給されません。

平成25年くらいには、「スーツを買っても節税になる」といった報道をしょっちゅう目にしました。
しかし実際はそう簡単な話ではありません。

 

この制度を利用するには、上記1~8の合計額のうち、その年中の給与所得控除額×1/2を超えた額という条件が付きます。
例えば年収600万円の場合、1年間に年87万円以上、業務に関する支出がないと、そもそもこの制度は受けられません。
しかも前述したように、スーツなどの衣料費や図書費は上限65万円。つまり仮にスーツを65万円購入したとしても、それだけでは87万円に届かず、その年控除は受けられないのです。

 

特定支出控除が浸透しない理由1:節税の効率が悪すぎる

つまり転勤の際の転居費などがないと、この制度を利用する機会はかなり少ないのです。
新幹線通勤などで、会社の規定を超えた部分なども対象になりやすいかもしれません。

そもそも65万円分もスーツを買う方がどれくらいいるのでしょうか…。
仮に年収600万円の人が転勤を命ぜられ、転居に40万円、毎週末家族に会いに年間40万円、スーツに20万円、合計100万円支出したとします。
100万円-87万円(控除額)=13万円
税率が10%だったとして、13,000円の還付となります。
100万円の支出をして13,000円とは…。物足りない気がするのは私だけではないはずです。

 

特定支出控除が浸透しない理由2:会社に支出を認めてもらう必要がある

支出額もそうですが、個人的にはもう一つの高いハードルがあるように思います。
上記の通り、図書費、衣料費、交際費には、勤務先が発行する証明書が必要になると書きましたが、つまり「業務の遂行に必要だった」と会社が認めてくれないと控除対象になりません。
その顧客との会食は誰の判断だったのか、この書籍は業務に直接関係あるのか、など会社(人事や社長)と意見が分かれることもありそうですね。
これらの事を踏まえると、0.003%の利用率もうなずけます。決して「使い勝手の良い制度」とは言えません。

 

とはいえ、数少ないサラリーマンの節税。転勤関連の支出を予定している方は、その他の支出も合算すれば控除に届くかもしれません。気にしてみましょう。

一覧に戻る