2020.08.03 | FP赤井の生活マネー情報

投資信託は信金で買え?「顧客本位」の見分け方とは

「老後資金2,000万円不足問題」が話題となり、またつみたてNISAやiDeCoなどの契約者数が拡大するなど、ここ数年で確実に「資産運用」のニーズ、関心は高まっているように感じます。

資産運用初心者でも比較的始めやすく、リターンも期待できるのが「投資信託」。特に毎月一定額を購入し続ける「積立投信」です。近年金融機関も様々なメディアで宣伝していますが、さて誰に相談し、どこで購入すれば良いのでしょうか。
投資信託を検討するにあたり、情報収集する方法として大きく分けると

  1. 自分で調べる
  2. 詳しい人に聞く
  3. 取り扱っている金融機関に聞くの3択となります。

FPとしては2、を勧めたいところですが、実際は3の「金融機関に聞く」方が多いようです。しかしそこには落とし穴が、、、

買うファンドが決まっているならどこで買っても同じ

先に確認しておくと、同じ投資信託商品(ファンド)を買うのなら、銀行だろうが証券会社だろうがパフォーマンスは同じです(販売手数料は金融機関ごとに異なる場合があります)。

つまり、買いたいファンドが決まっているのなら、取扱いのある金融機関であればどこで買っても大して変わりません。

しかし「どれを買って良いか分からない」場合はどうでしょうか。きっと金融機関の窓口や営業担当者に、どの商品を選べば良いか相談することになります。この場合、要注意です。

金融機関のおススメは危険

金融機関が「手数料を稼ぎたいから勧めている商品」なのか、「顧客の経験値やニーズを酌んで勧めている商品」なのか、初心者が見抜くのは至難の業です。

彼らは金融のプロですから(しかも顧客は〇〇銀行なら変な商品は進めないだろう、と根拠なく信頼しているので)、初心者相手にリスキーな商品を売るのは簡単です。

ではすべての金融機関は顧客の敵なのでしょうか…?そんなことはありません。「この金融機関は初心者向けではない」と見抜く方法を一つお教えします。

共通KPIとは

金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択した金融事業者の、「販売会社における比較可能な共通KPI」を公表しています。簡単に言うと、投信販売業者別に「適正なリターンを得ているかどうか」を数値化した資料です。


運用損益別顧客比率(都銀・地銀) 出典:金融庁

上の資料はKPIを公表している銀行別の「運用損益別顧客比率」です。

2019年3月末において顧客が保有している投資信託が、購入時以降運用がプラスかマイナスかを表してます(手数料控除後の数値です)。全業界平均に位置する群馬銀行を例にとると、約65%の顧客が、購入以降の成績がプラスになっています。

つまりいつ購入したかに関わらず、購入時と2019年3月時点を比較して、プラスになっている方が65%いる、ということです。この数値が、金融機関によって大きく違います。

最上位の山口銀行と最下位のあおぞら銀行を比較すると、プラスになっている顧客の割合は83%:36%と、倍以上の開きがあるのです。

さらに同資料を見ると、信用金庫や労金などの「共同金融」では全般的にプラスが多い傾向にあり、対面証券では反対の分布です。平均値のラインを見ると明らかです。

初心者に高リスク商品を販売していないか

もちろん「マイナスが多い=悪い金融機関」と断定はできません。これはあくまで一定の時点での評価ですので、「リスクを理解した上で大きなリターンを求める顧客」が多い金融機関は、相対的にマイナスも多くなります。

一部の対面証券会社では、マイナスの顧客も多い一方で、30%もしくは50%以上の収益が出ている顧客割合も多いことが分かります。このような証券会社では、リターンに対して適切なリスクがあることを顧客も理解していると想像できます。

問題は、知識のない顧客に過大なリスクを負わせていないか。

投資初心者に対して、比較的リスクを抑えられるはずの「インデックス型投信」を積極的に販売していれば、▲30%以上のマイナス投資家を量産することはないはずです。

身内の話で恐縮ですが、公務員を退職した私の父も超大手銀をすっかり信用して、決して初心者向けではない某南米通貨建の投信を強く勧められ、(私に内緒で)購入していました。現在の運用実績は無残なもので、本人は「なかったこと」にしているようです、、。

このような、明らかに顧客本位ではない販売行為が当たり前のように行われていました。これでは資産運用にはなりませんし、若い世代は「投資=ギャンブル」という間違ったイメージを持ってしまい、健全な資産運用の市場がいつまでたっても醸成しません。その危機感から、金融庁が公表に踏み切ったのがこの共通KPIなのです。

投信購入前に、一読を

このKPIは、金融機関によって評価期間が異なる、また売却済みの過去のデータは含まれないなどの課題もありますし、投信販売の絶対数が少ない金融機関の数値は、顧客本位かの判断材料として正確とは言えません。また公表自体していない金融機関もまだあります。

しかし「金融機関の投信販売スタンス」を知るには絶好の資料であることは間違いありません。もしこれから投資信託を始めたいと思っているなら、ぜひ一度目を通しておくことをお勧めします。


【金融庁】販売会社における比較可能な共通KPIの公表状況https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20190809_fd/002.pdf

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