2021.01.15 | FP赤井の生活マネー情報
遺言、書いてますか?
「遺言」と聞くとどのようなことをイメージするでしょうか。
- 相続
- 金庫
- 富裕層
- 巻物に手書きで
- 家族の争い
- 八つ墓村
ドラマや映画では「大富豪が遺した遺言により、相続争いが勃発」といったストーリーは定番ですが、実は誰でも作成できます。
遺言とは自分の死後、遺産の分割の方法や処分の指示などを残された家族(相続人)に伝えるために作成するものです。遺産の大小は問いません。
ではどのようなケースで遺言書は有効なのでしょうか。いくつか例を挙げてみます。
残される財産のほとんどが不動産である
日本国内で発生する相続財産の約35%が不動産とのこと。続いて現金・預貯金が約32%、有価証券が約16%と続きます。(国税庁:平成30年分相続税の申告事績の概要より)
不動産は相続人同士で簡単に分けられない財産です。現金等での調整ができれば良いのですが、相続財産のほとんどが不動産の場合、家族間で不平等感が生まれる可能性があります。その際に家長である被相続人の遺す「家族が守るべき遺言」は、効力を発揮します。
法定相続分によらず、優先的に遺したい財産がある
たとえば長男家族が同居して長年を介護をしてくれた、などという場合は、長男により多くの財産を遺したいと思うものです。そのような場合、遺言書に書き記すことにより、他の兄弟の不平を抑える役割を果たします。
また法定相続人ではない、孫や甥姪、義理の娘などに遺したい場合も同様です。
独身、もしくは子供がいない
資産を子や孫などの次世代に遺せない場合、別な親族が相続人となります。兄弟なら良いですが、甥やいとこの子など、遠い親戚に渡るのを良しとしない方も多いでしょう。
「会ったこともない遠い親戚よりは、日常的にお世話になった人に遺したい。」そんな時は遺言書が必要になります。
その他にも、遺産の一部を寄付したい、内縁の妻がいる、前妻との子がいる、などの場合にも遺言を有効活用することができます。
遺言の種類
遺言にはいくつかの種類があり、主なものを挙げると「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。特徴を一覧にしてみました。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が手書きで自書し、署名捺印します。手軽に作成できる反面、他人が代筆したりパソコンで作成したりすると無効となります。また、誰にも知らせずに作成できますが、死亡時に発見されない、もしくは故意に隠匿されるという恐れもあります。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人と2人以上の証人の立ち合いのもとで、遺言者が内容を公証人に伝えて、公証人が作成します。内容確認後に署名捺印を行い、原本は公証人役場で保管されます。
数万円の公正証書遺言作成費用が発生しますが、形式不備で無効となるリスクがないので、安全で確実な遺言書ということができます。
ちなみに上記2種類以外に、内容を秘密にしたまま自分で保存し、公証人にその存在のみを証明してもらう「秘密証書遺言」という方式もありますが、手続きが煩雑なうえ不備・紛失等のリスクは拭えないのであまり利用する人はいません。
自筆証書遺言の制度改正
2019年1月からは、財産目録についてはパソコンでの作成が認められるようになりました。
また、2020年7月からは法務局での「自筆証書遺言書保管制度」が始まっています。形式の確認はされないので引き続き注意は必要ですが、紛失や隠匿は防止でき、また死後、相続人に遺言書の存在が知らされるため見落としもなくなります。また検認(※)も不要になります。
※検認とは、相続人に対し遺言の存在を示し、内容を知らせるための手続です。自筆証書遺言の保管者や発見者は、開封せずに家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
まだまだ少ない遺言利用者
このように自筆証書遺言も近年利用しやすくなってきており、より遺言制度を普及させたい国の意図が見えます。
というのは、遺産分割事件は年々増えている一方で、遺言制度の利用率はなかなか伸びない現状があります。
55歳以上で自筆証書遺言を作成したことのある人は3.7%、公正証書遺言を作成したことのある人は3.1%で、合計6.8%です。(法務省:平成29年我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査)
前述したように相続財産の約40%が不動産でありながら、遺言書の利用率が7%弱。モメる人が多いのも頷けます。
遺言のもうひとつの効果
法的な強制力はないものの、付言事項を利用して「家族への感謝の気持ち」や、「自分の死後の家族の在り方」など、様々な想いを伝えることができます。単純に資産の分け方を記すだけでなく、その理由や、生前言葉にできなかった想いなどを付記することで、遺産分割がスムーズになることもあります。
遺言書は遺書ではありません。死期を意識するタイミングまで待つ必要はありません。財産が多くても少なくても、相続人が仲良しでもそうでなくても、家族に思いを託す遺言書の存在が、悪い影響を及ぼすことはまずないでしょう。再作成は可能ですので、専門家にも相談しつつ、なるべく早い段階から準備したいですね。